組織構造は、炭素排出量を正確に測定するための土台として機能します。単なる形式的な作業ではなく、コンプライアンスを確保し、チームが効果的な気候対策を推進するための重要なツールです。以下の点がその理由です。

GHGプロトコルでは、企業が排出量インベントリに含める事業範囲を明確に定義することが求められています。この定義は、統合アプローチ（運用管理または財務管理など）に沿ったものでなければなりません。これを正確に行うことで、規制やステークホルダーの期待に沿った報告が可能になります。

計画的に設計された組織構造は、内部での取り組みにおいても重要です。以下のような効果をもたらします。

コンプライアンスのための境界は厳密な規則に従う必要がありますが、内部構造は柔軟性に設計できます。事業目標や持続可能性へのビジョンに応じ、事業体を自由にグループ化および構造化することが可能です。

組織の境界を定義する際には、GHGプロトコルに基づいて以下の3つの主要なアプローチから選択する必要があります。

日々の運用を管理している範囲の排出量を含めるアプローチです。意思決定や変革を推進しやすいため、最も一般的に選ばれます。

例）小売チェーンを管理している場合、所有権の有無にかかわらず、運営している全店舗の排出量が含まれます。

財務的および運営的な方針を指揮し、経済的利益を得る権限がある範囲の排出量を含めます（通常、財務持分が50%以上の場合）。この方法は、連結財務諸表に沿っており、子会社を複数監督するホールディング会社など、所有権構造に基づいて意思決定を行う企業に適しています。

所有割合に基づいて排出量を計算します。この方法は、金融やエネルギー業界など特定の業界でより一般的です。

例）共同事業（ジョイントベンチャー）の30%を所有している場合、その事業からの排出量の30%を含めます。

ほとんどの企業にとって、運用管理アプローチが最もシンプルで直感的です。意思決定プロセスと整合し、脱炭素化を推進しやすいからです。GHGプロトコルも、特段の理由がない限り、これを推奨しています。

詳細については、GHGプロトコルガイドラインをご参照ください。（リンクは外部で、英語のみとなります。）

少し抽象的に感じるかもしれませんが、安心してください。ゼロから始める必要はありません。まずは、既存の組織図を見直すことをお勧めします。財務報告などに含まれている組織図は、境界を定義する上での強固な基盤となる場合があります。

ただし、財務組織図は、実際の炭素測定のニーズに完全には一致しないことがあります。

例）排出量は主に実際の施設から発生するため、工場と倉庫の排出量を分けるのが理にかなっています。しかし、マーケティングや財務部門など複数部門が同じオフィスを共有している場合、組織図をさらに細分化する必要はありません。

排出量が発生する施設に焦点を当てることが重要です。入手可能なデータや分析計画を考慮し、施設単位で構成することを検討してください。

例）スーパーマーケットチェーンの場合は店舗、倉庫、オフィスで排出量を管理し、製造業の場合は工場や物流拠点に優先順位をつけることが一般的です。

このアプローチで始めることで、組織図が実用的であり、炭素測定目標に適合する形になります。

組織構造の詳細も重要なポイントです。詳細度が高いほど、可視性と管理能力が向上します。その分データ収集が複雑で時間がかかる場合があります。適切な詳細度は、目標と利用可能なデータに依存します。

例）施設レベルで排出削減プログラムを追跡したい場合、各施設を反映した詳細な構造が必要です。しかし、開始したばかりでデータが限られている場合は構造を簡素化して始め、炭素測定の取り組みが進むにつれて徐々に精緻化していくのが理想的です。

企業が３ヵ国、合計50の施設を運営しているとします。初めは国単位で排出量を集計して全体像を把握し、データが揃った段階で徐々に施設ごとに細分化するというアプローチが現実的です。

このアプローチなら、初期段階での負担を軽減しつつ、データが整うにつれて詳細な管理と分析が可能になります。

炭素測定のための組織構造の設計は、コンプライアンスのためだけではありません。意味のある気候行動を推進するための基盤を築くことです。既存の組織図を活用し、実際の施設と整合させ、ビジネス管理方法を反映した構造を選びましょう。

小売業、製造業、サービス業のいずれであっても目的は同じです。チームに排出量の測定、管理、削減に必要な明確性とツールを提供することです。

今、時間をかけて正確に構築することで将来のトラブルを防止しましょう。炭素測定の組織構造をデザインすることは、単なる出発点ではなく、長期的なサステナビリティを達成するための第一歩です。